大判例

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大阪高等裁判所 昭和30年(う)1818号 判決

原判決は本件犯罪事実として所論摘録の如く判示した上、被告人の所為は刑法第二〇〇条に該当するが、被告人は本件犯行当時すでに離縁及び離婚届がなされているものと信じていたため、クケノが自己又は配偶者の直系尊属であるという認識がなかつたものであるから、同法第三八条第二項により同法第一九九条によつて処断することとし、本件犯行の動機や殺意が未必的であること、犯行後直ちにその非をさとつて医者を呼びに行つたこと、自首をしていること等の諸般の情状を斟酌して懲役八年を量刑する旨を説示している。しかし原判決に現われたところによると、被害者宮北タケノは長女恵美子と二人だけで細々と生活していたので被告人を迎えてその給料で扶養してもらうつもりであつたのに食費にも足りない金しかくれないのみならず被告人は恵美子が入院手術を受けた際の健康保険の給付金や年末賞与金を受取りながらタケノに隠してパチンコに費消したためタケノ等が被告人の言動に疑惑を抱き融和を欠くに到つたものでその責はむしろ被告人にあつたものと認むべく、しかも被告人は反省するところなく、同居生活約一年にして被告人自ら家出をしてしまつたものであるから、タケノ側から離縁や離婚の話が持ち出されたのも無理からぬところなるのみならず、被告人はタケノ側から金五万円の要求を受けてこれを出し渋り且つ恵美子に未練があつたので離縁や離婚の届書に印を押すことを拒み、ついに恵美子との離婚がタケノの一方的な押しつけによるものと一途に思い込み、憤懣やる方なく、本件犯行当日の夕方には直接タケノに会つてその点を追及し話の次第によつては同女を殺害すべく、わざわざ刺身庖丁を購入し、平素は余り嗜まない酒を飲んでその勢を駆り、タケノ方に乗り込んだもので、離婚が恵美子の真意かどうかをタケノに問い質そうとしたところ同女が離婚の種をまいたのは被告人であるといつて取合わなかつたため激怒して所携の刺身庖丁で同女の胸を突き更に逃げようとする同女の背後からその右腕外後上部を突き右前胸部に貫通せしめ、右刺切創による大出血により同女を即死せしめたことが明らかであり、如上の経過に照らすときは、本件犯行の動機に関しては被害者には殆んど責むべきものがないに反し、被告人に対しては全く憫諒の余地はないのであつて、又原判決が殺意が未必的であつたというのは判文中の「話の次第によつてはタケノを刺して恨を晴らす目的」であつたとの点を指すのか「同女が死ぬようなことがあつてもかまわないと考え」た点を指すのか、はた亦両者を含む趣旨であるか明確を欠く嫌があるが、少くとも刺身庖丁のような鋭利な刃で被害者の胸を突き刺した事実を認定しながら、殺意が未必的であつたというのは首肯し難いところであつて、むしろ検事所論の如く本件犯行は計画的で残忍性があり犯情軽からざるものというべきである。しかも原判決が被告人の離縁等の手続は一切実兄に任せていた関係上、本件犯行当時既に正式に離縁及び離婚の届がなされていたと信じていたとの弁解をそのまま採用していることの当否はともかく、本件犯行の一〇日前までは一年有余にわたり自己の養親として又妻の実母として同居していた女性を殺害するが如きは、そのような身分関係なき者を殺害した場合に比し、その情相当重きものというべく、如上諸点の外被告人の素行、性格その他記録に現われた各般の情状を参酌するに、原判決の量刑は軽きに失するものと考えられるので、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて刑事訴訟法第三九六条第三八一条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書を適用して当裁判所において直ちに判決するに、被告人の原判示所為は刑法第二〇〇条に該当するところ、被告人には本件犯行当時被害者が自己又は配偶者の直系尊属であることの認識がなかつたものであるから同法第三八条第二項により軽き同法第一九九条によつて処断することとし、所定刑中有期懲役刑を選択し、所定刑期範囲内で、被告人を懲役一二年に処し、未決勾留日数の算入につき、同法第二一条、押収物件の没収につき同法第一九条第一項第二号第二項、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第一八一条第一項本文をそれぞれ適用し主文のとおり判決する。

(裁判長判事 岡利裕 判事 国政真男 判事 石丸弘衛)

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